同じ事例でも、見えている景色が違う。救急と多職種連携について考えた研修
先日、川崎市看護協会が開催した「地域を守る救急隊との連携について考える」という研修に参加しました。
今回の研修には、看護師だけではなく、ケアマネジャー、救急隊、行政関係者など、さまざまな職種の方が参加していました。
救急要請が必要となった場面を想定し、どのように情報を伝え、どのように連携するのか。
それぞれの立場から意見を交わす中で、私自身も多くの気づきを得ることができました。
特に印象に残ったのは、
「同じ問題でも、職種によって見えている景色が違う」
ということです。
同じ事例でも、職種によって見えているものが違う
例えば、看護師であれば、バイタルサインや症状の変化、既往歴、服薬状況など、医療的な視点から利用者様の状態を捉えます。
一方、ケアマネジャーであれば、普段の生活状況、家族の介護力、介護サービスの利用状況など、「生活」という視点があります。
救急隊には、119番通報を受けて現場へ向かい、到着後に傷病者の状態を評価し、必要な処置を行い、適切な医療機関への搬送につなげるという役割があります。
行政には、個々のケースだけではなく、地域全体の医療・介護・福祉の仕組みを支えるという視点があります。
それぞれの職種が異なる役割を持っているからこそ、同じ事例を見ても、注目する部分が違います。
だからこそ、多職種で情報を持ち寄ることに意味があるのだと改めて感じました。
厚生労働省も、在宅医療の体制整備において「退院支援」「日常療養支援」「急変時の対応」「看取り」の4つの機能を地域で整備し、多職種連携を進めることを示しています。
川崎市では、年間約9万件の救急出場
ここからは、今回の研修をきっかけに、川崎市の救急について少し調べてみました。
川崎市消防局によると、令和7年(2025年)の救急出場件数は91,157件で、過去最多となりました。
1日平均では249.7件。
単純に考えると、川崎市では平均して約5分46秒に1件の割合で救急車が出場していることになります。
搬送人員は74,147人。
原因別では、
急病:53,272人(71.8%)
一般負傷:11,846人(16.0%)
交通事故:3,197人(4.3%)
となっており、この3つで搬送人員の92.1%を占めています。
また、搬送人員のうち、入院を必要としない「軽症者」は38,000人で、51.2%を占めています。
これは単純に「軽症だから救急車を呼ぶべきではない」という話ではありません。
救急車が必要かどうかは、症状や緊急度によって判断する必要があります。
大切なのは、本当に緊急性が高い方へ、必要なときに救急車が届く体制を維持することです。
川崎市には救急車が何台ある?
では、これだけ多くの救急要請に対して、川崎市にはどれくらいの救急体制があるのでしょうか。
川崎市消防局の資料によると、令和7年時点で、
救急隊:31隊
高規格救急車:40台
消防署:8署
出張所:28所
消防職員の条例定数:1,458人
となっています。
ここで注意したいのが、「救急隊31隊」と「救急車40台」は同じ数字ではないということです。
救急隊は実際に救急活動を行う隊の数であり、救急車の台数とは別の指標です。
川崎市では、こうした消防署・出張所や救急隊を配置し、市内全域の救急需要に対応しています。
救急車は何分で到着する?
「119番したら、救急車は何分くらいで来るの?」
これは、多くの方が気になるところだと思います。
川崎市の資料によると、令和7年の救急車の平均現場到着時間は9.6分でした。
令和6年は9.8分だったため、0.2分短縮しています。
「約10分」と考えることもできますが、これはあくまで平均値です。
実際の到着時間は、発生場所、時間帯、交通状況、その時点で近隣の救急車が別の救急要請に対応しているかどうかなどによって変わります。
川崎市自身も、救急需要の増加により、救急要請に対して直ちに対応できない事案が発生することや、現場到着時間の短縮が課題となっていることを公表しています。
そのため、
「10分くらいなら待てる」ではなく、緊急性が高い場合には、ためらわず119番すること
が重要です。
このサインは迷わず119
川崎市の「救急受診ガイド」では、以下のような場合を「すぐに119番」としています。
呼吸をしていない、息がない
脈がない、心臓が止まっている
水没している、沈んでいる
冷たくなっている
呼びかけても反応がない
普通にしゃべれない、声が出せない
顔色・唇・耳の色が悪い
冷や汗をかいている
これらは、迷わず119番を考えるべきサインです。
川崎市の緊急度分類でも、緊急度が高い場合は「今すぐに119番に電話しましょう」と案内されています。
もちろん、ここに挙げた症状だけが119番の対象という意味ではありません。
急激な症状の変化や、普段とは明らかに違う状態など、緊急性が疑われる場合には、ためらわず119番することが大切です。
「119」「110」「#7119」――緊急度に合わせて連絡先を選ぶ
緊急時には、「どこへ電話すればいいのか」が分からなくなることもあります。
基本的な役割は次のように整理できます。
状況 | 連絡先 |
|---|---|
救急車・消防車が必要 | 119 |
事件・犯罪など、警察への緊急通報 | 110 |
救急車を呼ぶべきか、医療機関を受診すべきか迷う | #7119 |
「事件性があるから110」「救急が必要だから119」と分けられるケースばかりではありません。
例えば、事件に巻き込まれて負傷しているなど、警察と救急の双方が必要になる状況も考えられます。
その場合には、それぞれ必要な機関へ通報することになります。
迷ったときの「#7119」
「救急車を呼ぶべきなのか分からない」
「病院に行った方がいいのか分からない」
そんなときに利用できるのが救急安心センター「#7119」です。
総務省消防庁によると、#7119は、急な病気やけがの際に、救急車を呼ぶべきか、今すぐ医療機関を受診すべきかなどについて、医師・看護師・相談員等へ電話で相談できる仕組みです。
神奈川県の#7119は、24時間365日利用できます。
ただし、
明らかに緊急性が高い場合は、#7119ではなく119です。
川崎市も、意識がない、呼吸がないなどの重篤な症状の場合は、すぐに119番通報するよう案内しています。
固定電話と携帯電話、119番ではどちらがいい?
119番通報は、固定電話・携帯電話のどちらからでもできます。
ただし、それぞれに特徴があります。
固定電話のメリット
固定電話から119番すると、その電話の住所を管轄する消防機関につながります。
川崎市消防局は、固定電話について、携帯電話と異なりGPSによる誤差がなく、消防車や救急車が向かう場所の特定がスムーズになると説明しています。
そのため、自宅などで固定電話を使用できる状況であれば、発信場所を特定しやすいことがメリットの一つです。
携帯電話のメリット
携帯電話の最大のメリットは、外出先など、固定電話がない場所からでも119番通報できることです。
川崎市では、携帯電話から119番通報する場合、GPS機能を有効にすることで現場特定の精度が高まると案内しています。
一方で、携帯電話では電波状況等によって正確な位置特定が難しい場合があります。
そのため、
「川崎市○○区○○」など住所を伝えることができれば住所を伝え、分からなければ交差点、店舗、電柱などの目印を伝える
ことが重要です。
つまり、固定電話と携帯電話のどちらが「正しい」ということではありません。
必要なときに、確実に119番し、救急車が向かう場所を正確に伝えること。
これが最も重要です。
救急隊が到着する「前」から始まる連携――PAC
今回の研修で、救急活動における連携を考えるうえで興味深かったのが、PAC(Pre-Arrival Call:プレアライバルコール)です。
PACは、救急隊が現場へ到着する前に電話連絡を行い、必要な情報を事前に確認する取り組みです。
自治体の救急活動マニュアルでは、PACを「現場到着前電話連絡」と定義しています。
例えば、救急隊が現場へ向かっている間に、必要に応じて通報者等へ連絡し、傷病者の情報などを確認することで、現場到着後の活動や搬送を円滑にすることが期待されます。自治体によっては、重症度が高いケースなどで、氏名、生年月日、服薬情報などを事前に確認する運用も行われています。
これはまさに、
「救急隊が到着してから連携する」のではなく、「到着する前から連携を始める」
という考え方です。
川崎市でも、救急需要の増加に伴い、救急隊の1回あたりの活動時間短縮や、救急隊員の負担軽減が課題となっています。ICTを活用した救急業務効率化の実証実験も行われています。
在宅医療においても、急変時に必要な情報を事前に整理し、関係者間で共有しておくことは重要です。
在宅療養では「急変する前」の連携が重要
厚生労働省は、在宅医療における「急変時の対応」について、病院・診療所、薬局、訪問看護事業所、消防機関などが連携し、急変時に円滑に入院医療へつなげられる体制を構築することが重要だとしています。
つまり、急変してから慌てて連絡先を探すのではなく、
主治医は誰か
訪問看護はどこか
ケアマネジャーは誰か
急変時はどこへ連絡するのか
救急搬送が必要になった場合、どのような情報が必要か
本人はどのような医療を希望しているのか
といったことを、元気なうちから整理しておくことが大切です。
これも、多職種連携の一つだと思います。
DNAR=「すべての治療をしない」ではない
在宅医療や介護の現場で、もう一つ重要なのがDNARです。
DNARは、
Do Not Attempt Resuscitation
の略で、心肺停止時に心肺蘇生を行わないという意思決定・指示を指します。
ここで非常に重要なのが、
DNARは「すべての治療をしない」という意味ではない
ということです。
川崎市立川崎病院の公開方針では、DNAR指示は心肺停止時のみに有効であり、DNARを理由として、心肺停止以外の状況における酸素投与、人工呼吸器、昇圧薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室などの通常の医療・看護行為を自動的に不開始・差し控え・中止してはならないとしています。
つまり、
DNAR=治療拒否
ではありません。
また、
DNAR=救急搬送しない
という意味でもありません。
心肺停止時の蘇生をどうするかという意思決定と、心肺停止に至っていない急変時にどのような治療を行うのか、救急搬送するのかという判断は、分けて考える必要があります。
川崎市でもDNARプロトコルの見直しが議論されている
DNARは、本人・家族だけの問題ではありません。
急変時には、医師、訪問看護師、施設職員、ケアマネジャー、救急隊など、複数の職種が関わる可能性があります。
川崎市メディカルコントロール協議会の令和7年度第1回議事録では、「DNARプロトコールの見直し」が審議事項として取り上げられています。
そこでは、訪問看護を含む医療従事者との関係も含め、DNARに関するプロトコルの変更について検討が行われています。
このことからも、DNARは単に「DNARあり・なし」という書類上の問題ではなく、
本人の意思をどう確認し、急変時に関係者がどう共有し、救急現場でどう対応するか
という、多職種連携の重要なテーマだと分かります。
「一人で何とかする」のではなく、「つながる」
今回の研修を通して、私自身が改めて感じたことがあります。
それは、
一人で解決することだけが専門性ではない
ということです。
訪問看護師として、利用者様の状態を観察し、必要な判断をすることはもちろん重要です。
しかし、一つの職種だけでは解決できない問題もあります。
医療については医師。
看護については看護師。
生活や介護サービスについてはケアマネジャー。
薬については薬剤師。
リハビリについてはリハビリ職。
急変時の救急活動については救急隊。
地域の仕組みについては地域包括支援センターや行政。
それぞれが専門性を持ち、それぞれの視点から利用者様を支える。
そして、その情報をつなぐ。
それが「多職種連携」なのだと思います。
まほろばが大切にしたい「顔の見える連携」
今回の研修では、普段とは異なる立場の方々と直接話すことで、自分だけでは気づかなかった視点を知ることができました。
だからこそ、訪問看護ステーション まほろばとしても、単に「連絡先を知っている」という関係ではなく、
「困ったときに相談できる」
「お互いの役割を理解している」
「必要な情報をスムーズにつなげられる」
そんな顔の見える関係を、地域の専門職の皆さまと築いていきたいと考えています。
厚生労働省も、在宅医療の体制整備において、多職種・関係機関の連携による急変時対応の体制構築を重視しています。
今回の研修で学んだことを、日々の訪問看護にもつなげていきたいと思います。
一人では難しいことも、連携することで支えられる。
それを改めて実感した研修でした。
今回参加した研修
川崎市看護協会
「地域を守る救急隊との連携について考える」
今回の研修では、救急時の対応や多職種連携について、看護師、ケアマネジャー、救急隊、行政関係者など、さまざまな職種の方と意見交換を行いました。
川崎市看護協会|研修案内「地域を守る救急隊との連携について考える」
参考資料・公式情報
川崎市消防局
川崎市消防局|令和7年中の火災・救急件数等の概況
厚生労働省
厚生労働省|地域の在宅医療の体制整備に向けた調査・連携支援事業
総務省消防庁
DNAR関連
